明日を考える経営

- 経営者・幹部へのアドバイス No.21 -

下請けから脱皮する

 中小企業が成長発展するには、下請けからの脱皮です。
数多の零細・中小企業はこの願いをもっていますが、現状から脱皮するための目標は、分かっていても実行プランが立てられないのです。

 下請け企業の利点は営業がいらない、管理スタッフがいらない、現業だけでよい。
必要なことは社長がこなすし、経理は社長夫人がとり仕切るので、管理コストが少なくてすむ。そうしなければ、孫下請けのローコストの仕組みはつくれない現状があります。
 これでは後継者もついてきてくれないのです。

 下請けから脱皮するチャンスは、どの企業にも訪れるのです。
常日頃から自社の技術(コアコンピタンス)を磨いて、チャンスを求めていなければなりません。
 
 ご紹介するのは、大阪の小さいプレス・メーカーS社です。
長年、照明器具部品のプレス加工をしてきました。
ところが、親企業が中国へ工場を移し、仕事がなくなったのです。


 S社は、特殊鋼の薄板を購入している製綱メーカーと長年にわたって緊密なコミュニケーションを保ち、プレス金型ではバリのない精密な金型技術をもっていました。
この技術を製綱メーカーも認知していたのです。
照明器具がなくなった後は、自社技術を評価してくれる顧客との連携を強化し、特許の独占でなく、顧客と共願で特許申請を始めて、新製品を生み出していきました。

 そうした矢先、製綱メーカーが、自動車機器を製造している大手A社からある部品の開発先を探してほしいと頼まれたのです。
それは難題でしたがS社の社長は自社の金型技術とアイデアで可能と判断し、サンプル部品の製作を引き受けたのです。

 このサンプル部品を見たA社の設計開発担当はその機構の創意と精密加工精度さに驚いたのです。
ところがA社は名だたる品質管理のうるさいところ、S社の品質管理体制が自動車部品の要求水準以下でA社の購買の評価基準と品質管理の基準に合致しないということになったのです。
A社の設計開発担当者もS社の優れた技術による機能部品を採用したい強い思いでしたので、S社にはISO9001認証取得を条件に、A社の既存取引先経由で受け入れることになったのです。
さらに、もうひとつ問題がありました。この小さい工場で20万個、40万個体制がとれるかという問題です(最初は新車から充当ということで月産6000個ぐらいからスタート)。

S社の社長は、「大丈夫です」と24時間連続のロボット装置の構想を明らかにしたのです。
現在、20万個体制が実現し、そのロボットは機密扱いで見学を許していませんが、プレスとロボットの見事な連携は感嘆から感動ものです。
こんな工夫もあるのかと思うのです。中小企業の優れたアイデアと技術は大企業を凌駕していると言ってよいのです。自信と勇気が得られる現場技術です。

 S社のISO9001品質マネジメントシステムの構築は経営コンサルタントの支援があったとはいえ、S社の青年取締役(後継者で大企業よりの転職)の努力と社員指導がありました。
1.4年後に認証も無事取得し、A社とは直取引になり、特許はS社・A社の共願です。A社にとっても数多の協力工場で特許共願は初めてで、それだけS社の技術を高く評価した結果です。

 零細・中小企業は下請けといえ、独自の技術で長年仕事をしてきているところが多いのです。
その技術が単独で花開く場合もあるでしょうが、顧客の技術と絡まってひとつの製品になるのです。そのチャンスはあります。

 マーケティングで「関係性マーケティング」「CRM(カスタマー・リレーション・マーケティング)」という考え方が浮上しています。
お客と「融合」し、双方が技術とアイデアを出し合い、どちらが主体か、客体であるかが曖昧な新製品開発です。
ここには値段の駆け引きはありません、発注側・受託側双方の知恵で、いかに市場価格に合致した製品をQCDで創造するかが課題です。

このためにも、自社技術、中核技術(コアコンピタンス)を明確に定義し、力を蓄えていくことがポイントです。
(2006.8.15 長谷川好宏)
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